2024年10月、GitLabはGartner IT Symposium/Xpoに出展しました。このイベントにおいて、GitLabユーザーのくら寿司株式会社 執行役員 DX本部長 中林 章氏に弊社セッションに登壇いただきましたので、本ブログではその模様を中心にレポートします。
会場の様子
中林氏の講演は、当社のJapan Country Manager 小澤 正治をモデレーターとする対談形式で行われました。開催2週間前に満員御礼となり、当日も満員の来場者が詰めかけた人気セッションでしたが、講演の冒頭で小澤は、「今日のこの時間がMLBのワールドシリーズにぶつかると考えていませんでした。昨夜から、本当に人が来てくれるのかどうか心配していて、皆さんに来ていただけて安心しました」と会場の笑いを誘います。
くら寿司株式会社 執行役員 DX本部長 中林 章氏
中林氏は、「GitLabとの出会いは去年のこのイベントです。私たちが必要としていたソリューションがGitLabだということがすっと腑に落ちて、その場で採用を決めました」と話し、ブースのパネル展示を見てGitLabが合うと感じたと明かします。小澤は「私の講演を聞いてくれたのではなかったのですか」と合いの手を入れましたが、中林氏は「いえ、ブースのパネル展示で」とつれない返事。会場は再び笑いに包まれました。こうして、セッションはやわらかな雰囲気で和気あいあいと進みます。
GitLab合同会社 カントリーマネージャー 小澤 正治
GitLabに登録したビジネスバックログは、そのままプロダクトバックログになる
くら寿司は、「安心・美味しい・安い」というコンセプトに加え、「ビッくらポン!」を代表とした「楽しい」を追求しています。「抗菌寿司カバー 鮮度くん」など独自の品質管理などでも消費者の信頼を獲得し、成長してきました。また、先進的な業務の標準化、効率化を進め、業界に先駆けて機械化/デジタル化を進めている企業としても知られています。
図:くら寿司のサービス展開の歴史
中林氏は、そんな同社の歴史について、機械化に取り組んだ時代を経て、デジタル化の時代が来たと説明します。デジタル化には、タッチパネル注文など店舗内のものとスマホ予約システムなど店舗外のものがあり、現在は機械を含めた店舗内のプロセスと店舗内/店舗外のデジタル、および本社のビジネスプロセスをつなぐさまざまな取り組みを実施できる段階に来ています。そして、デジタルテクノロジーとデータを活用した企業理念の実践を実現しようとしているのです。
「GitLabを使って進めているくら寿司流DXで大切にしていることは、独自性です。お客様DX、事業基盤DX、従業員DXと3つのDXを進めていますが、くら寿司ならではの競争力のあるDXを推進することが求められています」(中林氏)
なぜ「ならでは」である必要があるのでしょう。それは、くら寿司の経営スピードが極めて速いサイクルで進むためです。経営会議は2週間に1度あり、その場で意思決定がなされ、プロジェクトが実行に移されます。たとえば異業種とのコラボレーションなどのイベントも、このスピード感で決まり、実行します。現場のアイデアや困りごとはすぐに吸い上げ、優先順位をつけて即座に対応していくことになります。
これはデジタルにおいても同様で、中林氏は2週間に1度、新たな複数のプロジェクトを開発現場に持ち帰ることになります。中林氏は、「このサイクルに合わせるためには、DevSecOpsが不可欠になります。経営会議の決定をビジネスバックログとしてGitLabに登録すると、それがプロダクトバックログになるイメージです」と話します。
GitLabによってDevSecOpsを根付かせることで、ビジネスの意思決定をプロダクトの計画、設計、開発、リリース、運用というプロセスに一貫した流れに落とし込めます。これにより、セキュリティリスクとビジネスリスクをどちらも低く抑えることができます。GitLab導入後1年を経た今、くら寿司の社内には、「GitLabに合わせて開発する」という文化が根付きました。
すべての開発プロジェクトはGitLabの中で完結するため、開発と運用にかかわるすべての経緯はGitLabを見て、過去のログをたどればわかります。中林氏が経営会議から持ち帰ったビジネスバックログまで遡ることができるのです。セキュリティ面では、シフトレフトを加速させています。成果物によって求めるセキュリティレベルは異なるため、ビジネスモデルやスプリントごとに最適なセキュリティを決定し、それを開発プロセスに組み込むことで、求めるセキュリティレベルを担保できるようにしています。
セキュリティはプロアクティブな対応に近づけたい
図:くら寿司のGitLab導入前の課題と導入後の効果
セキュリティについては、脅威側が日々進化するという問題があり、どれほどの対策をしても終わりはありません。くら寿司の場合、開発プロジェクトのほぼすべてが自社開発になっているため、ソフトウェア・サプライチェーンのリスクは大きな課題です。地産地消の推進に伴い、国内でも地域/店舗ごとにソフトウェアやデータの連携先、デジタルタッチポイントなどは異なります。さらに、海外店舗もあるため、プロセス/データの連携先に対するガバナンスも必要になってきます。
これらの課題に向き合うために、くら寿司では、「お客様に迷惑をかけないこと」を第一義として整理しています。「セキュリティに対してリアクティブな対応で良しとしようという風潮はあります。しかし、本来プロアクティブな対応を取れるとより良いわけで、少しでもそこに近づける必要はあるでしょう。GitLabのおかげで、リスク要素がよく見えるようになりました。どのサーバで問題が起きているか、という視点でなく、どのスプリントがどの程度のリスクをはらんでいるのか、という視点を得られたのは大きな成果でした」(中林氏)。
左より、くら寿司株式会社 執行役員 DX本部長 中林 章氏、GitLab合同会社カントリーマネージャー小澤正治
海外拠点では、国内システムと共通化すべき部分とそうでない部分を切り分けて運用することにしました。本社の高速な意思決定サイクルを海外にも展開しながら、現地が自ら考えてその地域に最適なプロダクトを開発し、その上で適切なセキュリティを担保できる開発を推進しています。いわば、ITも地産地消なのです。
お客様に満足し尽くしてもらえるようなAIを提供してみたい
喫緊の課題に、将来のAI活用があります。中林氏は、狭義のITを「回転レーンの寿司を監視するような、モノの判別に使えるようなAI」と定義し、そうではない広義のAIを活用していきたいと語ります。
くら寿司株式会社 DX本部 執行役員 本部長 中林 章氏
中林氏は、「AIはお客様に継続的な価値を提供し続けるために使いたいです。たとえば、お客様が“今はマグロじゃなくてスイーツを食べたい気分”なら、それを察知してレコメンドしてくれるようなAIが居てくれるとうれしくないですか?お客様とずっとコミュニケーションを取ることで、お客様に満足し尽くしてもらえるようなAIを提供してみたいと考えています」と話してくれました。
GitLabのブース