ブログ セキュリティ SBOMの基本と導入方法|ソフトウェアのセキュリティを守るための実践ガイド
公開:March 26, 2025
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SBOMの基本と導入方法|ソフトウェアのセキュリティを守るための実践ガイド

この記事では、SBOMの基本知識や注目されている背景、導入方法などを詳しく解説します。

SBOM keyvisual

ソフトウェア開発において、セキュリティリスクへの対応は年々重要性を増しています。特に、OSS(オープンソースソフトウェア)の普及に伴い、脆弱性管理やライセンス対応の課題に直面している方も多いのではないでしょうか。

こうした中で注目を集めているのが、ソフトウェアの構成要素を可視化する「SBOM」です。本記事では、SBOMの基本知識や注目されている背景、導入方法などを詳しく解説します。セキュリティの強化や開発の効率化を目指す方は、ぜひ参考にしてください。

1. SBOMとは?基本知識と重要性

SBOMは「Software Bill of Materials」の略で、ソフトウェアに含まれるすべての構成要素(コンポーネント)を一覧化した「部品表」のことです。

SBOMには、使用されているOSS、サードパーティ製ライブラリ、独自開発のコンポーネントなど、ソフトウェアを構成するすべての要素を記載します。各コンポーネントのバージョン情報、ライセンス情報、依存関係なども含まれており、これらの情報を一元管理し、製品全体の透明性や安全性を確保する重要な役割を果たします。

2. SBOMが注目されている背景

SBOMとは3

近年、ソフトウェア開発の環境が大きく変化する中で、SBOMの重要性が急速に高まっています。ここでは、SBOMの注目度が高まっている3つの背景について、詳しく見ていきましょう。

2-1 ソフトウェアサプライチェーン攻撃の増加

ソフトウェアサプライチェーン攻撃とは、開発・供給過程で使用されるソフトウェアやツールに不正なコードや脆弱性を仕込む手法です。この攻撃は、正規の更新プログラムやコンポーネントを介して攻撃が拡散するという特徴があります。信頼される配布チャネルを利用するため攻撃の検知が極めて困難であり、被害が広範囲に及ぶケースも少なくありません。

独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が発表した「情報セキュリティ10大脅威 2024[組織]」(外部サイト)では、サプライチェーンを狙った攻撃が2位にランクインしており、その深刻さが伺えるでしょう。また、同ランキングの5位「修正プログラムの公開前を狙う攻撃(ゼロデイ攻撃)」や7位「脆弱性対策情報の公開に伴う悪用増加」では、脆弱性が指摘されたコンポーネントの存在や依存関係を迅速に把握できなければ、被害拡大の要因になります。

このような背景から、ソフトウェアの構成要素を詳細に可視化し、脆弱性や不正コードの混入を早期に検知できるSBOMの重要性が高まっています。

2-1-1 アメリカの大統領令のひとつにSBOMの提供が挙げられたことも

2020年に発生したSolarWinds事件は、サプライチェーン攻撃の脅威を世界に示した象徴的な出来事です。この事件では、SolarWinds社が提供するツールを通じてマルウェアが配布され、約17,000の企業・組織に影響を与えています。

これを受け、2021年にはアメリカ政府が「国家のサイバーセキュリティ向上に関する大統領令」を発令しました。この中でSBOMの提供が重要な要件として位置づけられ、連邦政府機関に製品を提供するソフトウェア開発者や供給者は、正確なSBOMを提供することが求められるようになりました。

2-2 OSSの普及

OSSは、現代のソフトウェア開発において不可欠な要素のひとつです。OSSの活用は、開発コストの削減や開発スピードの向上、品質の確保など、多くのメリットをもたらします。

一方で、OSSの利用拡大に関しては、一部課題もあります。特に深刻なのが、OSSコンポーネントを標的としたサプライチェーン攻撃の増加です。また、使用しているOSSの脆弱性対応やライセンスコンプライアンスの確保も、重要な課題となっています。

このような課題を解決するためにも、OSSを含めコンポーネントのバージョンやライセンス情報まで管理できるSBOMの有効性が注目されるようになりました。

2-3 経済産業省による推進

日本でSBOMへの注目が高まっている要因のひとつとして、経済産業省による積極的な推進も挙げられます。同省では、サイバーセキュリティリスクの増大に対応するため、SBOMの活用を含めた包括的なセキュリティ対策の強化を推進しています。

たとえば、2024年8月には、SBOMを導入する具体的なメリットや導入プロセスを詳細に解説した「ソフトウェア管理に向けたSBOM(Software Bill of Materials)の導入に関する手引ver2.0」が公開されました。

また、中小企業も含め、あらゆる企業でSBOM導入を効率的に活用できるよう、検討会や啓発活動も行われています。これらの取り組みにより、SBOMは今後さらに普及が進んでいくでしょう。

3. SBOMを導入すべき理由とその効果

SBOMとは

SBOMの導入によって、セキュリティリスクの可視化や脆弱性管理の効率化など、多くのメリットがあります。ここでは、SBOMを導入すべき理由とその効果について詳しく解説します。

3-1 ソフトウェアサプライチェーンリスクの可視化

SBOMを導入する最大のメリットのひとつは、ソフトウェアサプライチェーンのリスクを可視化できる点です。開発・運用するソフトウェアの全構成要素が一覧化され、各コンポーネントのバージョンや依存関係を明確に把握できるため、効率的かつ効果的なセキュリティ対策が可能となります。

特に、複数のベンダーが関与する大規模なシステム開発において、すべてのコンポーネントが同じセキュリティ基準を満たしているかを確認するのは容易ではありません。一方、SBOMがあれば、各ベンダーが提供するソフトウェア部品のセキュリティ状況を統一的に管理でき、潜在的な不備やリスクを早期に発見できます。

このように、SBOMは組織のセキュリティリスク管理を強化し、セキュリティ事故を未然に防ぐための重要な基盤となります。

3-2 脆弱性管理の効率化と迅速な対応

SBOMを活用すると、システム全体の脆弱性管理を大幅に効率化できます。特に、新たな脆弱性が報告された際の迅速な対応が可能になるのは大きなメリットです。SBOMがあれば、脆弱性が指摘されたコンポーネントや、セキュリティリスクの高い古いバージョンのソフトウェアを即座に特定し、対処することができます。

さらに、各コンポーネント間の依存関係も詳細に記録されているため、特定の脆弱性が他の部品に与える影響範囲の正確な把握が可能です。これにより、問題解決に向けた対応を効率的に進められ、被害を最小限に抑えられます。

このような迅速で正確な対応力は、セキュリティ事故への対処だけでなく、顧客や取引先からの信頼を維持するためにも欠かせません。

3-3 コンプライアンス対応とライセンス管理

SBOMは、ソフトウェア開発におけるコンプライアンス対応とライセンス管理の効率化を支援する強力なツールです。特にOSSを利用する場合、それぞれのコンポーネントには固有のライセンス条件が設定されており、これらを適切に管理しなければなりません。

SBOMを活用すると使用しているOSSのライセンス情報を正確かつ迅速に確認できるため、ライセンス違反のリスクを回避できます。これにより、法的トラブルやブランドイメージの毀損といった事態も防げるでしょう。

また、ライセンス管理を手動で行う場合、見落としや記録ミスが発生しやすく、チェックに多くの時間を要するケースがあります。SBOMを活用するとライセンス情報の管理を自動化でき、運用効率が大幅に向上するのもメリットのひとつです。

3-4 コスト削減や開発の効率化

SBOMの導入は、組織全体のコスト削減や開発の効率化にも寄与します。まず、脆弱性の特定やライセンス違反の確認にかかる手間を大幅に削減できるため、人的リソースの効率的な活用が可能になります。

また、セキュリティリスクの早期発見と対応が可能になることで、インシデントへの対処や顧客補償にかかるコストを抑えられる点も大きなメリットです。加えて、ライセンス違反による法的対応コストや、プロジェクトの遅延によるペナルティコストなども抑えられます。

さらに、ソフトウェアの全体構成が明確になるため、新しい機能追加やメンテナンス作業も効率的に行えます。そのため、SBOMの活用は、結果として開発チームの生産性の向上にもつながるでしょう。

4. SBOMツールを導入する際の課題

SBOMとは4

SBOMを作成するには、専用ツールの導入が一般的です。しかし、適切なツールの選定や運用に必要なリソースの確保といった課題に直面するケースも少なくありません。ここでは、SBOMツールの導入時に、特に注意しておきたい2つの課題を紹介します。

4-1 ツール選びが難航する可能性がある

SBOMツールは有償版と無償版を含め多くの選択肢があり、それぞれの特徴を理解したうえで適切なツールを選定しなければなりません。

有償ツールは機能が豊富でサポートが充実していますが、導入コストが高くなる傾向があります。一方、無償ツールはコスト負担が少ないものの、機能やサポート範囲が限定的な場合が多く、使い方によっては十分な効果が得られない可能性があります。さらに、海外製のSBOMツールは問い合わせやサポートが英語のみの場合もあり、言語の壁が障害となるケースも考えられます。

このように、SBOMツールを選定する際には、ツールの特性だけでなく、自社のニーズやリソースに適合しているかを慎重に評価することが重要です。

4-2 SBOMの運用には十分なリソースが必要

SBOMを効果的に運用するには、まずツールを使いこなすための専門知識とスキルを持つ人材が必要不可欠です。特に、SBOMの作成や更新、脆弱性情報のモニタリング、影響範囲の分析といった業務を適切に行うには、高度なスキルと経験が求められます。また、有償ツールを導入する場合には、ライセンス料や月額費用といった運用コストが発生するため、予算の確保も課題のひとつです。

さらに、SBOM運用の効果を十分に発揮するためには、運用プロセスの標準化や体制の整備も必要です。運用体制が不十分だとSBOMの管理が滞り、結果としてセキュリティリスクの増大やコンプライアンス違反などを招く可能性が高まります。

このように、SBOMの効果を最大限に引き出すには十分なリソースを確保する必要があり、これらが不足すると適切に運用できないおそれがあるため、注意が必要です。

5. SBOMを導入する流れ

SBOMとは2 SBOMを導入するには、社内体制の整備やツールの選定、解析作業など、いくつかのステップを踏む必要があります。スムーズに導入を進められるよう、事前に各工程のポイントを把握しておきましょう。以下で、具体的なSBOM導入の流れを解説します。

5-1 社内体制の構築

SBOMを効果的に導入・運用するためには、まず社内体制を整える必要があります。SBOM活用を推進する責任者を配置し、組織体制を整備しましょう。また、課題でも触れたように、実際にSBOMを管理・運用できる専門的な知識やスキルを持つ人材の確保も欠かせません。さらに、作成したSBOMの管理体制や管理方法を事前に決定しておくと、スムーズに運用を開始できます。

5-2 SBOMツールの選定

SBOMツールは、自社の目的や規模に応じたものを選ぶことが重要です。経済産業省の手引では、次のような選定観点の例が示されています。

  • 機能
  • 性能
  • 解析可能な情報
  • データ形式
  • コスト
  • 対応フォーマット
  • コンポーネント解析方法
  • サポート体制
  • 他ツールとの連携
  • 提供形態
  • ユーザーインターフェース
  • 運用方法
  • 対応するソフトウェア開発言語
  • 日本語対応 など

これらに関して自社の制限や優先度を明確にした上で、最適なSBOMツールを選びましょう。

参考:ソフトウェア管理に向けたSBOM(Software Bill of Materials)の導入に関する手引 ~全体概要~(経済産業省)

5-3 コンポーネントの解析

選定したSBOMツールを導入したら、対象ソフトウェアのスキャンを行い、コンポーネントを解析します。この段階で、誤検出や検出漏れがないかを慎重に確認しておかなければなりません。特に、重要なコンポーネントが漏れている場合、脆弱性やライセンスの管理に重大な影響を及ぼす可能性があるため、解析結果を丁寧に精査することが大切です。

5-4 SBOMの作成と共有

解析したコンポーネントのデータをもとに、SBOMを作成します。SBOMのフォーマットや項目、出力ファイル形式などについてあらかじめ基準を決めておくと、効率的にSBOMの作成を進められます。また、SBOMを対象ソフトウェアの利用者やサプライヤーに共有する際は、その方法についても事前に検討しておきましょう。

たとえば、クラウドストレージやWebサイト、製品への組み込みなど、SBOMの共有方法にはいくつかの選択肢があります。公開範囲やデータ改ざん防止策、サプライヤーからの要件なども踏まえて、適切な方法を採用してください。

5-5 SBOMの運用と管理

SBOMは作成して終わりではなく、継続的な運用と管理が求められます。定期的に脆弱性スキャンを実施し、セキュリティ事故やコンプライアンス違反のリスクがないか確認しましょう。脆弱性情報が自動更新・通知されるツールを活用すれば、効率的かつ正確な運用が可能です。さらに、ソフトウェアのアップデートや新規コンポーネントの追加があった際にはSBOMも適宜更新し、常に最新の状態を保つ必要があります。

5-6 SBOMの運用にAIを活用する方法も

SBOMを効率的に運用・管理するために、AIを活用する方法もあります。過去の脆弱性データからSBOMに含まれるコンポーネントの潜在的なリスクを事前に予測する機能や、ソフトウェアの更新やコンポーネントの追加に応じて自動でSBOMを作成・更新する機能を活用すれば、管理負担の大幅な軽減が可能です。

例えば、AI搭載のDevSecOpsプラットフォーム「GitLab」はSBOMを生成する機能がソースコード管理サービスと一体化していて、普段のソフトウェア開発とコンテキストスイッチなしに即時可視化状況を確認できるなど、独自の機能を備えています。

また、SBOMと脆弱性スキャンを連携させることで、依存コンポーネントの脆弱性を自動検出し、修復提案まで一元的に管理できるため、セキュリティ対策の効率が大幅に向上します。

手間を削減しながらSBOMを適切に管理したい場合は、このような高性能なツールの活用を検討するとよいでしょう。

まとめ:SBOMを活用したセキュリティ対策が求められる

SBOMは、ソフトウェアの構成要素を可視化し、脆弱性やライセンスの管理を効率的に行うための重要なツールです。特に、近年増加しているソフトウェアサプライチェーン攻撃やOSSの普及に伴うセキュリティリスクへの対策として、SBOMの注目度が高まっています。

さらに、DevOpsにセキュリティを融合させた「DevSecOps」の実践においても、SBOMは重要な役割を果たします。セキュリティを確保しながら迅速に開発を進めたい場合にも、SBOMツールの活用を検討してみてください。

より詳しい情報や、今後のDevSecOpsの展開について知りたい方は、ぜひ「2024 グローバルDevSecOpsレポート」をご活用ください。世界各地のDevSecOps専門家5000名を対象に行った調査結果をご覧いただけます。

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監修:ハシュカ アンドリュー / Andrew Haschka @ahaschka
(GitLab フィールド最高技術責任者)

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